建築基準法に適合していない建築物には「既存不適格建築物」と「違反建築物」の2種類があります。
建築基準法に適合していないとはいえ、一方は「仕方なく建築基準法に適合しなくなった建築物」で、もう一方は「建築時に違法だった」「増築などにより違法になった」という点が特徴です。
しかし、この2種類の違いを判断するためには、細かな特徴や違いを詳しく調べる必要があります。
そこでこの記事では「2つの違いを詳しく知りたい」という方のために、既存不適格建築物と違反建築物の主な違いやそれぞれの注意点を詳しく解説します。
既存不適格とは
既存不適格の建築物は、建築基準法の改正により「基準に満たない建築物」となってしまった建築物のことです。
つまり、建築当時は建築基準法に適合していたけど、現在の建築基準法には適合していない建築物と言えます。しかし建築基準法に適合していないとはいえ、全ての建築物を建て替えたり、改修するためには費用や時間もかかるため現実的ではありません。
そこで、建築基準法により既存不適格には以下のような定めが設けられています。
「この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない」
参照:e-gov 建築基準法第3条2項
要するに、建築基準法が施行される以前に建築された建築物は「建築基準法から除外する」という意味です。今後、建築基準法の改正が行われても、工事に着手していれば改正前の基準があてはまることになります。
既存不適格となる主な原因
既存不適格となる主な要因には、以下の3つがあります。
- ●耐震基準が満たない
- ●高さ制限を超えている
- ●建ぺい率、容積率がオーバーしている
それぞれ詳しく解説します。
耐震基準が満たない
耐震基準とは、建築物などを設計する際に最低限度の耐震能力を持っている構造物かどうかを保証し、建築許可を行う基準のことです。つまり、地震が発生しても建物の倒壊を防ぎ、人命を守ることができる「安全な建築物かどうか」を判断する基準になります。
今まで大きな地震が発生するたびに、耐震基準に関する建築基準法が改正されてきました。その中でも大幅な改正が行われたのが、1981年6月1日です。
- ●旧耐震基準・・・1981年5月31日までに建築許可がおりた建築物
- ●新耐震基準・・・1981年6月1日以降に建築許可がおりた建築物
旧耐震基準の建物は、現在の耐震基準には満たず「既存不適格建築」である可能性が高いと言えます。
高さ制限を超えている
高さ制限とは、建築物の高さの最高限度を定めることです。具体的な種類は以下の通りです。
- ●道路斜線制限
- ●隣地斜線制限
- ●北側斜線制限
- ●日影規制
さらに「絶対高さ制限」というものが以下の用途地域にあります。
- ●第一種低層住居専用地域
- ●第二種低層住居専用地域
この2つの用途地域で建築物を建てる際には、高さを10mや12m以下にすることが条件です。
しかし、用途地域に変更などがあっても建築物の建て替えは必要ないため、高さ制限を超えている建築物は既存不適格建築物に該当すると言えます。
建ぺい率や容積率がオーバーしている
建ぺい率や容積率が基準をオーバーしている場合も、既存不適格の可能性があります。
- ●建ぺい率・・・敷地面積に対する建築面積の割合
- ●容積率・・・・敷地面積に対する延べ床面積の割合
建ぺい率や容積率が基準をオーバーする要因として考えられるのは、都市計画の変更により、用途地域が変更になるケースです。
この建築物の場合、建て替える際に既定に合う大きさの建物を建築しなければいけません。
次章では、既存不適格建築物の注意点を解説します。
既存不適格建築物の注意点
既存不適格建築物の注意すべき特徴は以下の2点です。
- ●倒壊の危険により是正命令が下る
- ●健康被害に影響があれば修復や撤去命令が下る
それぞれの注意点を覚えておき、対応するようにしましょう。
倒壊の危険があれば是正命令が下る
既存不適格建築物は、基本的に是正命令をされることがありません。ここでいう是正命令とは「建築物が建築基準法に適合していないため適合するようにしなさい」という命令です。
しかし既存不適格の建築物は、建築基準法の改正により適合しなくなった建築物であり、いわば「仕方なく既存不適格になっている」と言えます。
しかし国土交通省によると、以下のような例外があります。
放置すれば危険性や有害性の程度が著しくなるおそれがあると認められる既存不適格建築物に対しては、特定行政庁が必要な是正等の勧告を行うことができ、これに従わなかった場合には是正等の命令を行うことができる
つまり、危険性が高い以下のような状況の建築物には是正が必要ということです。
- ●今にも倒壊しそうな建築物
- ●建築物の一部が落下して通行人に被害を与えるような状態の建築物
大地震などで、基礎が著しく破損している状態や、シロアリ被害で柱が毀損している状態の建築物には是正命令が行われるため、注意しておきましょう。
健康被害が出る建築物には修復や撤去などの命令が下る
倒壊など、物理的に危険な状態の場合だけでなく、健康被害が出るような建築物にも例外的に是正命令が下ります。
主な例としては、アスベストの飛散です。
建築物に使用されているアスベストが通行人や住民に飛散して健康被害に著しく影響が出る
場合は、建築物の改修や撤去、解体などの命令が下ることがあります。
基本的に是正命令がない既存不適格建築物も、例外的に2パターンの是正命令があることを知っておきましょう。
参考資料:国土交通省 既存不適格建築物に係る指導・助言・勧告・是正命令制度に関するガイドライン
違反建築物とは
違反建築物は、建築基準法やその他の関連する法令や条例に違反している建築物のことです。大きく分けて2つのケースがあります。
- ●初めから違反と分かって建築したケース
- ●適法に建築したが増改築などにより違反建築物になったケース
建築基準法の適用を受けない建築物や、都市計画区域外に建てる建築物など、条例や建物の規模によっては、建築確認が必要ありません。
しかし「適法に建築するための許可」を受けなければ、建築物の建築ができないのが一般的です。
また、適法に建築した後に増改築などで建ぺい率・容積率オーバーになり違反建築物になるため、覚えておきましょう。
次章では、違反建築物となる主な原因を解説します。
違反建築物となる主な原因
違反建築物となる主な原因は以下の3つです。
- ●増築により違法
- ●その他設置物により違法
- ●用途変更により違法
この章では、それぞれの特徴を解説します。
増築により違法
建築当初は適法に建築しても、増築したことで建ぺい率や容積率がオーバーになるケースです。
- ●建ぺい率・・・敷地面積に対する建築面積の割合
- ●容積率・・・敷地面積に対する延べ床面積の割合
建ぺい率や容積率がオーバーすることを知りながら増築するのはいけませんが、うっかりしていて後から「建ぺい率や容積率が超えていた」と気付く場合もあります。
このようなことにならないように、増築する際に違法になるかどうか知っておくことが必要です。
もちろん、確認申請を行わずに増築した場合も、増築箇所の撤去や建築物の取り壊しになる恐れがあるため、十分に気をつけましょう。
車庫や物置の設置により違法
ガレージなどの車庫や倉庫の増築により、建ぺい率や容積率がオーバーするケースも実際にあります。
建築確認申請は以下のように、大規模な修繕や模様替え、建物を建築しようとする場合に必要です。
- 1.特殊建築物(病院など)で床面積が200㎡を超えるもの
- 2.3階以上の木造建築物
- 3.平屋・2階建てで延床面積が500㎡を超えているもの。もしくは高さが13mを超え、軒の高さが9mを超えているもの
- 4.木造以外の建築物で、2階建て以上もしくは延床面積が200㎡を超えているもの
- 5.1~4以外で、都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区又は指定区域内の建築物
しかし、上記以外の条件や、防火地域や準防火地域で床面積10㎡以下の増築や改築などの場合は、建築確認申請が不要となるケースがあります。
車庫や倉庫を増築している方は、自分の建築物が対象かどうか確認してみましょう。
用途の変更により違法
使用用途の変更で、以下の条件になる場合は確認申請が必要です。
- ●特殊建築物への用途変更
- ●変更する部分の面積が200㎡を超えるもの
一部抜粋ですが、特殊建築物には以下のようなものがあります。
- ●自動車車庫、自動車修理工場
- ●飲食店
- ●物販品の販売店
- ●展示場
- ●病院
- ●共同住宅
例えば、居住用で建てた家を飲食店や、共同住宅として賃貸する場合に許可を得ていないと「違反建築物」になります。
すでに用途変更している場合は「特殊建築物に該当するのか」「面積は200㎡を超えているか」を確認しておきましょう。
違反建築物の注意点
既存不適格建築物と異なり、違反建築物には是正命令が下ります。命令に従わなければ、罰則など重い処分もあるため気をつけましょう。
工事の停止や建築物の除却等の命令が下る
既存不適格とは違い、違反建築物は基本的に是正命令の対象です。
是正命令の種類は、建築物の建築中と完成後では以下のように違いがあります。
- ●建築工事の途中なら工事の停止命令
- ●建築物完成後の是正命令は建築物の解体や移転命令
例えば、建築工事の停止命令が下ったのにもかかわらず、従わなければ「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科される可能性があります。
参照:e-gov 建築基準法第98条第1項第1号
既存不適格と違反建築物の主な違いとは
既存不適格建築物と違反建築物の具体的な違いは大きく3つあります。それぞれの違いを把握しておきましょう。
既存不適格は「建築時適法」で違反建築物は「建築時違法」
建築時に適法で何の問題もなく建築したものの、法改正などにより基準に適合しなくなったことです。
一方で、違反建築物は建築当初から「法律に違反していた」という違いがあります。
しかし「増築で建ぺい率や容積率オーバーになった」「倉庫や車庫をあとから設置した」「住宅から飲食店に変更した」などの理由によって違反建築物になったケースもあるため、違いをしっかり理解しておきましょう。
既存不適格は「売却可能」で違反建築物は「売却困難」
仕方なく現在の基準に適合しなくなった建築物である既存不適格建築物とは違い、違反建築物は建築基準法や都市計画法などに違反しています。
安全面でも危険なうえ、事故につながる危険性を伴う建築物と言えるでしょう。
そのため、違反建築物を売却しようと試みても簡単には売却できません。
既存不適格は是正命令ナシで違反建築物は是正命令アリ
前述したように、既存不適合の建築物は基本的に是正命令は下りません。
倒壊の危険や健康被害に影響が出るような場合に、修復や撤去の命令が出ます。
一方で、違反建築物は特例なく、是正命令が下ります。違反建築物を所有している場合は、早めに今後の方向性を決定するのがおすすめです。
既存不適格建築物や違反建築物を売却する方法
既存不適格建築物や違反建築物は、不適格箇所や違法物件であることを買い手に告知すれば売却は可能です。しかし、実際には買い手がつきにくく、膨大な時間を要する恐れがあります。
この章で解説する「売却するための3つの方法」を抑えておけば、スムーズな売却が可能です。
現金購入者を探す
金融機関の多くが、住宅ローン審査で「建築基準法に適している建物かどうか」を判断します。
金融機関は、住宅(土地・建物)を担保にして多額の資金を融資します。そのため、住宅に担保価値がなければいけません。
既存不適格建築物や違反建築物の場合、不動産の価値が相場よりも安くなりがちです。住宅ローンの審査が通りにくい物件の場合、現金購入できる買い手を探す必要もあることを知っておきましょう。
建物を解体して売却する
建物を解体することで、土地として売却できます。以下のような条件の土地は需要が高いため高額で売却することも可能です。
- ●再建築が可能
- ●駅や商業施設などが周辺に充実している
しかし、既存不適格建築物や違反建築物の中には、再建築不可物件もあるため注意が必要です。解体してしまうと、家の建て替えができなくなり取り返しのつかないことになります。
さらに、建物の解体には膨大な解体費用がかかります。
木造 | 坪単価5万円~7万円 |
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鉄骨造 | 坪単価6万円~8万円 |
鉄筋コンクリート造等 | 坪単価8万円~10万円 |
たとえば木造の延べ床面積30坪の建物なら、建物解体費用だけで最低でも150万円くらい必要です。それに加え、重機費用、人件費、運搬費などの諸費用を合わせるとさらにかかります。
建物を解体する前に、既存不適格建築物や違反建築物に詳しい専門の不動産会社に相談してみましょう。建物を解体せずに、現状のまま買取りが可能であれば費用面で安心です。
まとめ(再建築不可物件の実績がある不動産会社に相談しよう)
この記事で解説したように、既存不適格建築物と違反建築物は様々な違いがあります。その中で、共通点は「倒壊しそうな建築物や、悪影響を与える建築物には是正命令が下される」という点です。
万が一、建築物が倒壊して通行人や住民に被害を与えてしまうと所有者の責任を問われる恐れが十分にあります。取り返しがつかなくなる前に、再建築不可物件を専門としている買取会社に相談するべきです。
株式会社マーキュリーなら、以下の強みを活かしてあなたの悩みを解決できます。
- ●再建築不可に関する豊富な専門知識
- ●多種多様な経験・実績
お客様のご不安なこと、お困りごとに合わせひとりひとり最適な解決策をご提案しますので、ぜひお気軽にご相談ください。